特定天井でなくても天井の耐震化は必要
公共施設には庁舎、学校、図書館、病院、文化ホール、警察署、消防署、博物館、美術館、空港、駅等、重要な施設や多くの人が集まる施設が多い。
特に避難所になるような体育館や公民館等は絶対に天井を落としてはいけないが、その施設までの動線となる廊下が避難通路であることを忘れていることが多い。
天井高さが6mを超えていないから耐震化をしない、面積が200㎡を超えていないから耐震化をしないという設計者が多いが、廊下であっても天井が落下すると避難等の支障となるのは当然である。
軽量柔軟天井の注意点
平成28年熊本地震では特定天井に該当しない軽量柔軟天井(2㎏/㎡以下の軽い天井)が多くの現場で破損した。これは耐震天井ではなく「万が一天井が脱落した場合においても重大な人的被害を生ずる可能性が低い」という天井で地震時には破損することも多い。人的被害は生じなくても一度天井が破損してしまうと避難所としての継続使用は難しい。
しかも特定天井に該当しないため、設計者が天井面の照明器具等も含めた総重量が確実に2㎏/㎡以下であることを確認している例がほとんど見当たらない。
最近では明らかに2㎏/㎡を超えていると思われる天井も出回っているので注意が必要である。
準構造化の判断は吊りボルトの有無ではない
令和元年山形県沖地震では吊り天井に該当しない(特定天井ではない)準構造化されたとした天井が脱落した。吊り天井は吊りボルトの有無で判断する訳ではない。正しくは天井面の固有周期の確認が必要であり、本来はボード張りのビスまで検討が必要となる。特定天井以外の天井は安全性の確認がほとんどされていないのが現状であり、設計者は正しい耐震天井を見抜く力量が必要となる。
ネット張りの天井は既存不適格
ネット張りは体育館等の避難所での採用は控えたい。
なぜなら天井が壊れても床面までは落下しないが、天井告示の技術基準には該当せず、構造検討をしてネットを張っても既存不適格である。当然、地震後(破損後)には再度天井の改修が必要になる。
しかしながらネット張りは安全な空間を確保して避難する時間を稼ぐという意味ではとても有効であるので、それぞれの天井の脱落対策、耐震化工法の特徴を正しく理解した上で採用する必要がある。
地震が発生するたびに天井の被害事例ばかりが報告されるが、正しく耐震設計、耐震施工された天井は全く壊れていないことも知っていただきたい。
最後に、天井の耐震化が急務ではあるが、そもそも建築基準法第12条による定期点検が正しく行われていない。所有者には点検状況の再確認をお願いしたい。
日本耐震天井施工協同組合
技術委員長 塩入 徹
公益社団法人全国公立文化施設協会コーディネーター、一般社団法人全国室内工事業協会東北支部技能検定講師、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構愛知支部能力開発セミナー講師等を務める。地方自治体および教育委員会、建築士事務所協会、建築士会等を対象とした天井に関する講演多数。JACCA天井耐震診断士認定講習会や耐震天井施工研修会等の講師を務め、耐震天井に係る技術者を育成している。